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誰が71人の移民を殺したのか

      2015/09/03

まじゃるです。

昨日のラジオのニュースで、高速道路に放置されたトラック内で発見された、移民と見られる71人の遺体の司法解剖は水曜日に終了し、金曜日にオーストリア警察から発表がある見込みというのを耳にしました*1。また、ブルガリアで6人目の容疑者の身柄が拘束されたというニュースも入ってきました*2

オーストリアで71人の遺体が見つかった日、リビア沿岸沖でも2隻の船が転覆し、推定200人の移民が溺死したのは日本でもニュースになっていると思います。このように、移民の死を伴う悲劇が増えているわけですが、このオーストリアの事件は、他とは性質を異にするものです。それは、シェンゲン圏内で起きた事件であるということです。

少なくとも生命の危険はないEU圏内で、なぜ71人の犠牲者が出てしまったのでしょう?

 

容疑者の密入国ブローカー

もちろん、71人を窒息死させた直接の責任は、トラックでの輸送を企てた密入国ブローカーにあるでしょう。今回の彼らの非人道的な行いは、決して許されるものではありません。たとえ彼らが、「密閉された空間に人間を詰め込んだら、人は窒息する」とわからないほど頭が悪くても、犯した罪は償わなければならないでしょう。

この事件を受けて、ハンガリーと周辺諸国で、車で移民をドイツ方面へ密入国させようとする者たちの摘発が、一斉に強化されました。これはある程度の成果を挙げています、例えば、オーストリアでは26人の移民を運ぶトラックを摘発し、中で脱水症状で危機的状況だった5~6歳の子供3人の生命が救われたなど*3

 

そもそも、なぜシェンゲン圏内で密入国が発生するのか

ただ、ドイツに密入国したい移民がいる限り、その弱みに付け込んで稼ごうとする者は後を絶たないでしょう。なぜシェンゲン圏内で密入国をする必要があるのでしょう?それは、移民の立場から見ると、ハンガリーで難民申請するのと、ドイツで申請するのでは、大きな差があるからです。(ただしドイツが申請を突っぱねる可能性あり(#後述))

この原因は、ダブリン協定にあります。この協定の内容を端的に言えば、「難民申請は一度申請したら別の国で再申請はできず必ず最初の入圏国で行う必要がある。難民認定されるまで他国へ移動することはできない。それに反して他国に移動した場合は、最初の申請国に送還されうる、また難民を取り扱う責任の所在は、EU全体でなく、難民申請が行われた国にある」ということです。つまるところ不平等な協定なのですが、EUはこの問題に具体的な解決策を見いだせませんでした。つまり、EU全体にもこの事件の責任の一端があるわけです。

このことをよく理解しているのは、ドイツのメルケル首相だと思います。この問題は早急に解決すべきものだという認識は、事件後の彼女の言動に見て取れます。もっと早くからEU各国が足並みを揃えて難民問題に取り組んでいれば、この71人の犠牲者は出なかったかもしれない、別の言い方をすれば、自国の利益を優先し、EU全体で物事を考えなかった国々に殺されたと言っても過言ではないのです。

# ハンガリー経由でドイツに到達した場合、ハンガリーで難民申請をする/しないに関わらず、ダブリン協定を理由に、ドイツは最初の入国であるハンガリーに移民を送還できる。ただ、ドイツから実際に送り返された人数はそれほど多くはなく、2015年第1四半期にハンガリーに実際に送還された人数は42人*4


 

ダブリン協定は、ギリシャでは過去から問題と認識されていました。これについてのドキュメント映画を見つけましたので、紹介します。

Dublin’s trap (英語版)

HD: Dublin’s Trap: another side of the Greek crisis from Bryan Carter on Vimeo.

作品紹介(日本語)

 


まじゃるでした。

(青文字:9月3日追記分)

 


*1 http://www.origo.hu/nagyvilag/20150901-halalkamion-furgon-ausztria-menekult-halal-boncolas-azonositas.html
*2 http://index.hu/kulfold/2015/09/01/migranstragedia_bulgariaban_orizetbe_vettek_egy_ujabb_embercsempeszt/
*3 http://www.origo.hu/nagyvilag/20150830-elhagytak-a-korhazat-a-furgonbol-kimentett-menekult-gyerekek.html
*4 http://helsinkifigyelo.blog.hu/2015/06/16/kosa_lajost_elragadta_a_frazeologiaja

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