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ハンガリー、来週火曜日から入国管理を厳格化

      2015/09/11

まじゃるです。

ハンガリーは、難民の取り扱いに関連する一連の法令の改正案が、9月4日の臨時国会で承認され、9月15日から施行されます。これに伴い、これまでセルビアを通ってハンガリー国境まで来ていた難民の人々の行動も、大きく変化することが予想されます。

この件について、index.hu にまとめ記事*1が出ていました。まず、この記事の導入部を引用します。

来週火曜日から、当局の難民への対応は、全く異なったものになる。不法入国者は起訴された上、拘置され退去強制となる。一方、合法的に庇護申請を提出した人々も、ハンガリー入国は認められず、数時間のうちにセルビアへ追い返されることになる。政府は、今後数週間、大人数が強行突破を試みた場合の鎮圧についても想定しながら準備しているが、オルバーン首相たちは、クリスマスを比較的落ち着いた状態で迎えるためには、この方法しかないとしている。

少々、予断を持った記事のような気がしますが、実際にはどうなるのでしょうか?


 

国境フェンスとつながった法改正

この法改正の意図は、非常に単純です。すなわち「今後、不正入国には厳しく対処する」ということです。

今までは、国境フェンスを突破して不法入国しても、難民申請すれば罪には問われませんでした。しかし、今後はフェンスを越えて来た場合は、言い訳を認めなくなるようです。

ちなみに「難民の地位に関する条約」*2には、次のように定められています。

第三十一条 避難国に不法にいる難民

1 締約国は、その生命又は自由が第一条の意味において脅威にさらされていた領域から直接来た難民であって許可なく当該締約国の領域に入国し又は許可なく当該締約国の領域内にいるものに対し、不法に入国し又は不法にいることを理由として刑罰を科してはならない。ただし、当該難民が遅滞なく当局に出頭し、かつ、不法に入国し又は不法にいることの相当な理由を示すことを条件とする

 

トランジットゾーン設置 (計画中止になりました、詳細はこちら*4

このため、ハンガリー政府は、セルビアとの国境にあるフェンスの一部(3箇所)を60メートル後ろに下げ、そのU字型のエリアを「トランジットゾーン」とすることを決定しています。ここは「『難民』として入国を希望する人々が入国許可を申請する場所」であり、ハンガリーの領域外として扱われます。(国際空港には、こうした場所が設置されていて、申請者はここで待機するらしいです*3。また、現在ブダペストの鉄道各駅に設置されているトランジットゾーンとは趣旨が異なり、全く別物になります。)

 

考えられる問題

ハンガリー政府のシナリオでは、バルカンルートでハンガリーまでたどり着いた「難民」の人々の多くが、入国許可を申請し、セルビア側で待機するようになるとしているようです。

ここで2つの問題が考えられます。

  1. ハンガリーの入国管理局は、「難民」と「移民」を選別できるか?
  2. (特に、入国不許可になった人々が)国境フェンスを強行突破しようとした場合、どう対応するか?

 

本当に庇護が必要な人を救えるか?

上の1は大きな問題となり得ます。1日数千人規模で国境にやってくる人々を、個別に判断することが可能かどうかは、実際始まってみないとわからないところがあります。例えば、パスポート不所持だが、本来なら難民として認定しなければいけないような人はどう扱われるのでしょう。ちなみに法律では、8日間以内に決定を行うことになっています。

index.hu の記事では、「『安全国リスト』にセルビアも入っているので、セルビアから入国しようとしても、全員却下される」としていますが、さすがにEU各国から強い非難を受けるので、そこまではやらないとは思います。しかし、ハンガリーの入国管理局のさじ加減ひとつで、人々の運命が左右される危険があることは間違いありません。

 

マケドニアでの衝突の再現?

国境フェンスの強行突破については、間違いなく厳しく対応するはずです。今までハンガリーの警察は非暴力を通していましたが、来週の火曜日からは、不法入国者には、ゴム警棒・催涙ガス・放水車などが使用されることが十分考えられます。また、国防軍の国境配備も見込まれています。(国防相が突然辞任したのは、これが原因なのかもしれません。)

マケドニアで見られたような、国境での移民と機動隊・国防軍の衝突が発生する可能性は否定できません。

 

その先のシナリオ

ハンガリー政府が描いているであろうシナリオの続きについては、index.hu*1 では次のようにまとめられています。

  • 移民および密入国ブローカーが、セルビアからハンガリーへの入国は困難であると判断する。
  • セルビアも、移民が国内に残るようになることで、現在の方針を改める。
  • バルカンルートが、ハンガリーを通過しない、クロアチア・スロベニア経由へと変わる。(ルーマニア経由も考えられるが、ドイツへは遠回りになる)
  • こうなれば、少なくとも、高速道路の閉鎖などがなくなり、国民の生活が守られる。


 

以上のことは、まだハンガリー国内でも、あまり話題になっていませんが、来週火曜日からヨーロッパに大議論を巻き起こすかもしれません。とりあえず、来週どうなるかに注視してみましょう。

 

まじゃるでした。

 


*1 http://index.hu/belfold/2015/09/09/nagy_sokk_lesz_a_menekulteknek_orban_uj_idoszamitasa/
*2 日本外務省のサイト http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/pub/pamph/nanmin.html よりPDFで閲覧/ダウンロード可能
*3 http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2013/07/post-2983.php
*4 http://www.hungary-joho.com/?p=414 (9月11日修正)

 

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