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「国境フェンスは無駄なのか」を考えてみる

      2015/09/10

まじゃるです。

今回は、私、サイト管理人、まじゃる個人の考察です。


まず、ハンガリー政府は、セルビアとの国境175キロメートルにフェンスを建設中であり、鉄条網(*1)のフェンスは、8月31日までに予定通り完成見込みと発表しています(*2)。

しかし、前回の記事に書いたように、このフェンスの設置は、セルビアを経由してハンガリーに到着する移民の数を減らすには至っていません。

ハンガリーの世論では、フェンスは無駄だったという声が出てきています。しかし、本当にこのフェンスには意味は無いのでしょうか?

 

 

各国、そして移民の行動原理を考えてみる

バルカンルートに位置する各国(ギリシャ、マケドニア、セルビア)は、通過する移民には関わらない、というのが基本姿勢のようです。不法に入国した移民を逮捕するようなこともなく、難民申請などもさせていない模様。

一方、移民の目的地は、ドイツです。彼らにとってベストなのは、ドイツで難民申請をすること。難民に認定されるかどうかを問わず、ある程度の期間、合法的にドイツに滞在することができるからです。次善は、シェンゲン圏内に入って、不法入国で捕まった時点で難民申請すること。シェンゲン圏内であれば、他国への移動は比較的容易であるため。ただしドイツ滞在は非合法となり、強制送還のリスクが有ります。これはダブリン協定によるもの。

このため、セルビアのハンガリー国境付近まで大量の移民が押し寄せ、彼らは、ハンガリーへの密入国を図るわけです。

 

ハンガリーの採りうる選択肢

このセルビア国境まで来た移民の対応に、ハンガリーにはどのような選択肢があるのでしょうか?

「国境を固め閉鎖し*3、入国させない」・・・これは非人道的ですし、移民が暴徒と化し、国際問題になりかねないので、却下。(つい先週、マケドニア国境で移民と警察の衝突がありましたね)

「他国と同様、移民にはノータッチで、通過を妨げない」・・・これは、EU加盟国としてはあまりに無責任であり、即刻却下でしょう。

 

となると、ハンガリーの採りうる道は「不法入国は許さない。難民申請された場合は、規定にそって対応する」の1つしかありません

 

フェンスの役割

ハンガリーでは、フェンス設置前から、不法入国者が毎日1000人規模で逮捕されていました。フェンス設置後も、たしかに不法入国者数が劇的に変化したわけではありません。しかし、物理的な障害を設置することで、逮捕率は飛躍的に上がったと見ています。この国境管理の効率向上がフェンス設置の1つ目の役割だと考えます。

もう一つは、移民そして他EU諸国へ「ハンガリーは移民の不法入国を許さない」というメッセージを発するため。それと同時に「ダブリン協定は、不平等な取り決めである」ということも暗に言っているのです。

よって、フェンス設置後も移民の数が減っていないのは不思議ではないのです。


 

まじゃるでした。

 

 


*1 正確には、通称NATOワイヤと呼ばれる、ワイヤにかみそりの刃のようなものがついたもの
*2 日本のメディアでは高さ4メートルのフェンスが8月末までに完成と報道されていますが、それは間違いです。フェンスは2重に設置され、そのうち簡易的な鉄条網のフェンスが8月中に、4メートルのフェンスは遅れて11月に設置完了の見込みです)

*3 9月10日表現を修正しました。

 

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